かたくり工房で手がけてきたショーガーデンの一例をご紹介します。百貨店店内やイベント会場など、屋内の地面のない場所にガーデンを作るのは、通常の造園設計とは全く異なる工夫やテクニックが必要です。屋内で植物を美しく見せる難しさもありますが、逆に屋外ではできないことができるのがショーガーデン。見る人をアッと言わせる仕掛けや演出を考える面白さがあります。
「生きた絵画」としての庭演出
一幅の絵のようなこの庭は、百貨店「大丸」の中に作ったショーガーデンです。庭の手前にあえて壁を設け、巨大な額縁を設置し、庭をその枠内に収めるよう設計しました。あえて額縁という制限を設けながらも、豊かな庭風景となるよう奥行きを演出しています。でも実際には、デパートの屋内という限られたスペースなので、距離として奥行きを多く取れる余裕はありません。ですから、奥にいくにしたがい幅を狭め、手前に明度の高い膨張色の花を、奥は明度の低い収縮色の花を配すことで実際よりも奥行きを感じられるようにしました。これは典型的な絵画の遠近法で、小さな庭を広く見せるのにも有効です。
百貨店のショーガーデンで重要なのは、エンターテイメント性です。観光ガーデンなどと違って、特に庭や植物に関心があるわけではないお客様の目を留めるには、アッと驚く仕掛けが必要です。この庭は額縁内に収めることで絵画のように見せるという仕掛けですが、「驚き」の演出に欠かせないのが水音。遠くから見るとまるで絵のように見えて、近づいてくると絵画にはない「水音」が聞こえてくることによって、徐々にこれが本物の庭だという驚きが見る人の中に沸き起こってきます。
このような水音に加え、庭には鳥のさえずり、昆虫たちの羽音、風に揺れる葉ずれの音など、生き物や自然から発せられる音が必ずあります。そして、それらは庭にだけ許された美のエッセンスです。ガーデンには色彩、音、香り、味わいなどを融合した総合的な芸術性があり、植物の生育による変化も含めて、時間をかけ生き物とともに一つの空間に美を作り上げていく喜びを感じられることも、絵画や他のアートにはない大きな魅力です。一枚の絵としての演出をしながらも、「生きた絵画」としての庭の豊かさを感じてもらえるように「ガーデンピクチャー」という名前をつけて作りました。日本のお客様はもちろん、庭の本場である英国からいらした方々も、とても感動してくださったことは嬉しい思い出です。