かたくり工房で手がけてきたショーガーデンの一例をご紹介します。百貨店「高島屋」でも何年かに渡りショーガーデンを手がけてきました。今回は庭のある暮らしを想像してもらうために、シーンごとに演出したガーデンをご紹介します。広い庭だけでなく、ちょっとしたスペースで庭のある暮らしが楽しめるというメッセージを込めて作りました。
日本庭園は室内の座敷に座って眺めることを前提に作られており、京都や奈良で庭を拝見するたびに、その景色づくり、景色の切り取り方に表れる洗練された美意識に感嘆します。一方、ヨーロッパから導入された草花を群れ咲かせるガーデンは、もちろん眺めて美しいことも求められますが、草花を摘んだり、ハーブを収穫したり、庭の中で読書をしたり、食事をしたりと、庭と人はより密接でアクティブな関係性にあります。つまり、庭は暮らしの場の一つ。そうしたヨーロッパの庭の文化が、日本の女性たちにとっていかに新鮮で歓迎されたかを示すのが1990年代のガーデニングブームです。自身の感性を発揮し、新しい生活空間を戸外に作りあげる楽しさを知った女性たちによって、ガーデニングは一大ブームとなりました。かくいう私も、暮らしと密接な関係にあるその庭文化に魅了された一人であり、庭づくりで大事にしていることの一つが「人の居場所作り」です。
この高島屋でのショーガーデンでは、暮らしを想像しながら眺めてもらえるように庭作りをしました。上の写真はメインガーデンで、中央に広い芝生の空間をとり、その周囲に緩やかなカーブを描く花壇を設けました。椅子を置くことを最初から想定し、そこに座ったときに花が近くに感じられ、またすっぽり包み込まれるような安心感を感じられるよう、このような形にしました。芝の一部はタイルのペイビングにしましたが、実際の個人邸の庭づくりでもしばしばこのような手法をとります。芝生は開放的で気持ちいいのですが、人がよく歩く動線上はいずれ芝が傷んでハゲてくるので、最初から歩くための地面づくりをしておくと、芝の張り替えやメンテナンスなどに苦労しません。ペイビングの間には、ところどころグラウンドカバーの植物を配し、ハードな構造にナチュラルさを加えました。踏圧に強いタイムなどを選ぶと、多少踏んでも弱りませんし、踏むたびに香りが立ち上って心地よいので、わざと人の足に触れそうなところを選んで入れることがよくあります。
一方、こちらはベランダやバルコニーをイメージしたガーデンの演出です。花壇スペースは両脇にほんの少しで、あとは植木鉢と雑貨類ですが、それだけで十分ガーデンらしい雰囲気になるものです。「庭づくり」というとハードルが高く感じられる方もいるかもしれませんが、要は戸外空間を植物を使いながら快適に美しく演出するということで、植物をあれこれたくさん使わなくてもいいのです。ここではゲッケイジュ(ローリエ)のスタンダード仕立て(幹を一本真っ直ぐに伸ばし、上部だけで側枝を伸ばし葉を茂らせ、刈り込みで形を整えたもの)を2鉢置いていますが、同じ形状のものを左右対象に置くとフォーマルになり、小さなベランダでもきちんと整えられた感じが出ます。また、ゲッケイジュは煮込み料理や防虫・消臭としても使え、常緑で丈夫なのでベランダや屋上など厳しい環境にも重宝します。
こちらはエントランスの植栽。ここでも植栽と鉢を左右対称にしていますが、エントランスにはより格式を出すために、台座付きのアーンを用いています。アーンというのはカップ型で石製の装飾鉢で、ヨーロッパの庭ではエントランスや庭のフォーカルポイントとして用いられます。植物だけでなく、こうしたガーデン資材を上手に取り入れると、場所にあった雰囲気作りができます。
こちらはキッチンガーデン。野菜や果樹が育つ庭ですが、単に作物を栽培するだけでなく、ハーブや野菜、果樹など食べられる植物を使って鑑賞価値のある景色を作るのがキッチンガーデンです。中央のユニークな形の樹木はリンゴの木で、エスパリエ仕立てという壁に貼り付けるような形の樹形に仕立てたものです。この仕立てなら広い庭がなくても果樹栽培が楽しめます。野菜の中にデイジーやボリジ、ナスタチウムなどエディブルフラワー(食べられる花)も織り交ぜで、カラフルで美味しい庭に仕上げました。
最後は「ニッチ植栽」をご紹介します。ニッチとは建築用語でちょっとした小物などを飾るために壁を凹ませた飾り棚のことです。ここではモダンなコンクリート打ちっ放しの壁に、横長で一直線にニッチを取り、その中に植栽をしました。無機質なコンクリートは植物の有機的な形や瑞々しさを引き立ててくれるので、意外にも相性がとてもよいのです。モダンなお家の方にも、ぜひ庭を取り入れて欲しいと思います。