かたくり工房の設計した全国のガーデンをご紹介します。今回ご紹介するのは、ガーデニングが生きがいの施主さまが、病後にもう一度ガーデニングを楽しめるよう設計した庭です。施主の身体に合わせて、さまざまなオリジナルの造作物を作成しました。
庭づくりの背景
この庭の施主はとても庭づくりに熱心な方で、庭の一角に専用のハウスを持ち、タネから苗を育てて庭づくりをしてきました。しかし、あるとき脳出血によりご入院され、以前のようにガーデニングをすることができなくなってしまいました。ひとたび管理する人がいなくなると、庭は植物たちの熾烈な生存競争の場となります。雑草が茂り、大事にしていた草花が枯れていく姿を見るのは、庭を丹精し、季節ごとに美しい風景を楽しんできた施主にとって、とても辛いことでした。
そんな施主を励ましたいと、かたくり工房に庭づくりを依頼されてきたのは、ご家族でした。私はご家族から施主がどれほど庭づくりに情熱を注いできたか、お話を伺って、「もう一度庭づくりを楽しんでほしい」と強く思いました。ですから、私は完成形の庭ではなく、施主自身がもう一度庭づくりを楽しめる「場所」を作ることが重要だと思いました。私たちプロが完成形の庭を作って、定期的にメンテナンスに伺って管理することもできますが、それではせっかく庭を作らせていただく意味がないと思いました。庭づくりはこれまで施主にとって生きがいであり、その生きがいを取り戻してほしい。そして、庭で作業をすることが身体機能回復にも役立つはずだと考えたからです。
一か所に立ってぐるりと見渡せるサークル状の庭
庭はリビングに面した位置にあり、一箇所に立ってぐるりと庭が見渡せるようにサークル状にしました。ガーデニングをしている施主の姿が庭のどこにいても目に入り、ご家族も安心です。中央は芝生広場で、真ん中にテーブルを設置。リンゴの木を4本植えてアーチにしました。木が成長すれば、テーブルに心地よい木陰を提供してくれるはずです。
芝生の周囲に植栽花壇をぐるりと設け、ハクロニシキなどの低木を奥に配置して骨格とし、その手前を施主自身で手入れができる宿根草や一年草のエリアとしています。実はこの庭は中央に向かってわずかに勾配が低くなるすり鉢状になっており、テーブルの真下で水が集約されるようになっています。
手入れがしやすいレイズドベッド花壇
一方、花壇は芝生エリアから高さをあげて、奥へいくに従い緩やかに高さが上がるレイズドベッドとなっています。奥の花もよく見えるということと同時に、手入れのしやすさもメリットです。植え替えなどの手入れの際は、花壇の縁に腰をかけて作業できますし、芝生に膝をついて作業することもできるので、身体への負担が軽く済みます。
デッキから庭へ降りる時にも安全なように、手すりを設置してあります。
座って植栽が楽しめるテーブル花壇兼ベンチ
そして庭の手前にはテーブル状の花壇をレンガで二つ作成しました。植栽マスの下に足の入るスペースを設け、座りながら植栽が楽しめる花壇です。高さや奥行き、幅は全て施主の身体に合わせて設計してあります。施主の腕の長さを計測し、座った状態で奥まで手が届く奥行きとし、左右も端から端まで手が届くように緩やかなカーブをつけています。
花がら摘みなど日々の手入れは、座りながら花を間近に作業することができます。
テーブル花壇の裏側にも、カーブにぴったり沿った苗置き場を設けました。
実はこのテーブル花壇は、反対側を向いて腰掛けたときには、レンガの花壇が背もたれになり、数人で座れるベンチとして活躍します。座って作業がしやすく、なおかつベンチの背もたれになる距離感で椅子を設置しています。
サークル花壇の真ん中にもリンゴのアーチを設け、その下にはレンガの立水栓を作りました。もちろん、水まきの際にも使いますが、リンゴが実ったら収穫時高いところの実が採れるよう踏み台として使える高さにしています。
かたくり工房のデザイン力と施工力
こうしたオリジナルの造作物の設計施工は、かたくり工房代表井上和彦の得意とするところです。こういうのがあったらいいな、こういう風に使いたい、こういう質感や色味がいいというデザイナーの私のアイデアやイメージを、きっちり設計図に落とし、時にはさらに工夫をプラスして施工してくれます。既製品にも素晴らしい物がありますが、それだけではどうしても個々の環境や個人個人の事情に合わないこともあります。そんなときでも、施主各々の事情に合わせた機能性を庭に完璧に実現できるのは、デザイナーとデザイナーの考えを確実に形にできる施工力を持った、我々かたくり工房の強みだと思っています。
このお庭には、同様にオリジナルで作成した庭で調理や食事が楽しめる「ガーデンダイニング」も作りました。次回ご紹介します。